日本で最初にCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染者が確認されてから2か月以上が経ち、国内感染者は1000人を超えるまでになった(クルーズ船を除く)。それに伴って顕在化してきたのは、経済への深刻なダメージだ。報道では様々な対策が検討されていることが伝えられているが、それらが本当に効果があるのだろうか。日本が本当にとるべき経済対策を検討してみたい。
現金一律給付の効果は限定的?
報道によると、政府は、検討していた国民全員に一律の現金を給付することを見送る方向で調整に入った。賢明な判断である。一時給付金は、「コロナ不況」への対策として適切ではないからだ。
一時給付金の主な目的は、消費の喚起にある。簡単に言えば、「お金あげるから使ってね。」ということだ。確かにこれは、金融経済が実体経済に影響を及ぼしたとき、すなわち不況によって消費が落ち込んだ際には、一定の効果を発揮する方策だろう。(リーマンショックの時あまり効果を発揮しなかったと麻生大臣は言っているが…)
しかし、今回は状況が違う。これから深刻化するであろう不況は、外出自粛などによって、消費が落ち込んだことを発端としている。多くの人が実感しているであろうが、人々が購買行動をためらっているのではなく、言わば物理的に購買、消費の機会が奪われてしまっているのだ。
よって、現段階で消費喚起を目的とした国民への現金給付を行ったところで、そのお金は使われず貯蓄に回されることは想像に難くない。流行が収まれば自然と消費は回復することが予想され、COVID-19に伴う経済対策としては不適であろう。そのお金は別の対策に回すのが賢明である。
商品券はありだが目的に注意
現金給付に代わる消費喚起の方法として政府が検討していると報じられているのが、プレミア商品券の発行である。これは、時期や内容を誤らなければ、一定の効果が期待できるだろう。
商品券の一番の強みは、その使途を限定できることにある。例えば、今回一番の打撃を受けているのは観光業だといわれている。よって、旅行に伴う出費に目的を限定した商品券を用意すれば、観光業の回復を促進させることができる。このように打撃を受けた特定の業界への支援を狙ったプレミア商品券の発行は、その産業へのテコ入れとしてそれなりの力を発揮するだろう。
ただし、気を付けなければならないのがその時期である。商品券の発行は、感染症流行の終息が確認されるまで待たなければならない。先に述べたように、感染症が流行されている間は、いかなる消費喚起も成果を上げることは難しい。あくまで、終息後の産業の回復を目的とすべきであり、今すぐとるべき対策ではない。
消費税減税、ポイント還元は愚策
与野党内からは消費税減税を求める声が上がっているようだが、彼らはもう少し勉強をしたほうがよいのではないだろうか。過去の消費税率の変更においては、政府は年単位に渡る事業者への周知を行い、各事業者は莫大な時間とコストをかけてシステムを改修してきた。消費税の減税は、短期的な対策として実施することが不可能なのは、火を見るよりも明らかである。
現在行われているキャッシュレス決済へのポイント還元を延長、あるいは拡充する案も出ているようだ。だが、あくまでこれは、消費税増税に伴う消費の落ち込みを緩和することを目的の一つとしているもので、家計への負担軽減策として適切ではないだろう。
9月からのマイナポイント(マイナンバーカード所有者に対し、キャッシュレス決済へのポイント還元を行う)を前倒しをする案は、言語道断である。現在の取得率は2割に満たないとされ、今から発行しようとしても、申請から受け取りまで約1か月を要する。さらに、受け取るためには、役所という不特定多数との接触が見込まれる場所へ行かなければならない。全くもって即効性のある対策とは言えないだろう。
今必要なのは一時しのぎ
「コロナ不況」は、あくまで感染症の流行が原因となっている。言い換えれば、流行が収束すれば、自然と景気が回復することが見込まれる。さらに、経済対策と感染症対策は、基本的に両立させることができない。そうしたことを考えると、今政府がとるべきは、経済の回復を目指す対策ではなく、流行の終息を第一目標にして、それまでの間、企業、家計が持ちこたえられるようにする一時しのぎの支援であろう。
まずは、直接税の減税や延長が可能だ。これにより経営が悪化した中小企業や、収入が減少した家計を支援することができる。さらに、行っているのは行政のため、実施に時間やコスト、労力がさほどかからない。実際にこれは実行に移されている。
また、企業や個人への支援金も必要だ。これは、二段階で実施する必要がある。支援は早急に行う必要があるが、個別の事情を精査すれば時間がかかる。よって、第一段階として最低限の額を一律で支給し、その間に制度設計を行うことで、さらなる額を、必要に応じて支給していくのだ。以前、フリーランスへの休業支援金が少ないと話題になったが、ここでいう第一段階であったわけで、政府はその意図をきちんと説明すべきだし、世論も不用意な批判はやめるべきだ。
オリンピックがある日本は幸運だ
オリンピックの延期が決まり、それに伴う経済的損失に目が行きがちだが、オリンピックまでに流行が収束し、無事に2021年に開催されれば、日本経済への起爆剤になる。楽観的見解かもしれないが、オリンピックによって日本経済は急回復し、世界全体で見ても早期に立ち直ることができるだろう。
日本政府が、事業者や国民に対し、オリンピックまで持ちこたえるだけの支援をできるかが、今後の経済対策のカギとなるのである。