なぜ学校は再開されるべきなのか【新型コロナ】

なぜ学校は再開されるべきなのか【新型コロナ】

 4月になり新学期を迎え、緊急事態宣言が出された自治体を除いて、各地で、3月の休校要請を受け学校を閉鎖していた小中学校高校が再開しつつある。一方、SNSを中心にネット上では、休校措置の延長を求める声が上がり続けており、休校を求める署名が行われるなど、その影響は大きくなりつつある。

 しかし、こうした動きは決して賢明なものとは言えない。休校ありきの対応ではかえって社会不安が増大しかねないからだ。この記事では、どうして自治体は学校を再開させるべきなのか、考察していきたい。

全国の62%の学校が再開

 安倍首相は、2月27日の新型コロナウイルス感染症対策本部で、全国の小中学校と高校、特別支援学校について、3月2日から春休みまでの期間を目安に、臨時休校を要請する考えを示した。実際に、感染者が見られない一部の地域などを除いて、全国の大半の学校がこれに従った。

 それまで政府は、経済への影響を懸念し、大規模な感染症対策をとらない方針をとっていたが、この休校要請を皮切りに、強力な対策をとる方向へと舵を切った。一方、当時としては若年層の感染者はほとんど見られなかったことから、休校措置はパフォーマンス目当てに過ぎないとの批判も多かった。

 4月に入り、休校要請の期間は終わったものの、新規感染者は増加を続けている状況の中で、各自治体が学校が再開の判断をするかどうかに、注目が集まった。

 7日に公表された文部科学省の調査により、全国の小中高等学校のうち、62%が学校再開の方針であることが判明した(その後延期を表明した自治体は含まれていない)。このうち、緊急事態宣言が出された東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県では、再開すると回答した学校の割合は11%にとどまったのに対し、それ以外の41道府県では85%にのぼった

ネット上では再開反対の声が

 こうした状況の中、ネット上では、学校再開に反対する声が多く上がっている。愛知県、兵庫県を皮切りに全国で、生徒、保護者による学校再開反対する署名が集められているほか、中には「教育委員会へみんなで電話しよう」などといった、公務の妨害につながりかねない呼びかけも起きている。Twitter上では「#命守るために学校を一斉休校に」「#休校延長」といったハッシュタグがトレンド入りし、その勢いの大きさがうかがえる。

 実際、愛知県は当初学校再開の方針を示していたものの、批判の声の高まりが影響したかは定かではないが、大村知事はこれを撤回し、休校措置を延長することを決めた。

ネットの声は世論を反映しているのか?

 テレビ離れ、新聞離れが進む現代社会において、ネットで情報を集めようとする人が増えている。SNS上では、新型コロナウイルスの情報を集めるための「コロナ垢」なるアカウントが散見される。そうした「ネット世論」に多く触れている人は、再開延期を求める傾向にあるようだ。河北新報社がSNS上で行ったアンケートでは、学校再開の延期を求める声が多く上がった。

 しかし、そうした声が必ずしも多数を占めているとは言えない。4月4日放送のNHKスペシャル「“感染爆発”をどう防ぐか」では、「自分の地域の学校が再開したほうがいい?」という問いに対し62%の人が「賛成」と回答したアンケート結果が紹介された(反対は32%)。賛成した人の意見としては、子供の学習面、心理面や保護者の負担を懸念を示したものが見られた。

休校措置には負の側面も多い

 確かに、学校を休校すれば、学校でクラスターが発生する事態は防げるだろう。「感染症対策」としては、最善策に見えるかもしれない。しかし、それは果たして現実的な対策といえるのだろうか。

 子供は、学校に通うことがその生活の主目的となっている。特に小学生は、学校生活や友人関係に、精神面においても強く依存しており、休校措置が長引き自宅に閉じこもる日々が続けば、多大なストレスを抱え、最悪の場合精神異常をきたしたり、発育に問題が生じてしまうことも予想される。

 また、教育の遅れも深刻な問題になる。4月に入っても授業が行われなければ、3月の休校分と合わせた教育の遅れは、1年では取り戻せないものになるだろう。世代によって教育格差が生まれ、受験や、その後の社会人生活などで、深刻な問題を生みかねない。

 これに対し、オンライン授業を行えばよいとの声もある。実際、多くの大学が前期の授業をオンラインで行う方針を発表している。しかし、すべての学校でこれを行えるわけではない。

 現実問題として、教育現場が、一から授業配信のプラットフォームを築くことは難しいだろう。特に小学校や中学校の勉強は、ただ一方的に授業を行えばよいというものではない。教育現場では、先生と生徒の双方向的なやり取りが必須であり、それを可能にするプラットフォームは短期間で用意できるものではない。

感染者なき休校要求

 そもそも、休校措置を求める人たちの周りに感染者はいるのだろうか。もちろん、緊急事態宣言が出された都府県などは、感染者の増加が顕著であり、学校の休校は妥当と言って差し支えないだろう。しかし、新規感染者が少ない自治体でも、学校再開反対の声は上がっている。

 彼らはたいてい、根拠として感染者数のグラフなどを挙げる。しかし、それはたいてい「累計感染者数」のグラフだ。とくにこれは、北海道や(感染者数が急増する前の)愛知県などで顕著にみられ、直近の新規感染者数が1日数人から十数人程度であるにもかかわらず、累計感染者を盾にして、都道府県単位や全国での一斉休校が叫ばれている。

 新規感染者が限られている中で休校措置を求める動きが広がっていることは、実に不思議である。過度な外出自粛で外部との接触を断ったあまり、自分の住む市町村の現状がつかめなくなったのだろうか。外を見れば、買い物に行く主婦や、公園で遊ぶ小学生がいる。多くの自治体で、そこにはまだ、日常が残っているはずだ。

持続可能な感染症対策

 感染症は、数週間でなくなるようなものではない。過去の例を見ても、数か月から数年にわたる戦いになることは間違いない。では、その間、ずっと厳戒態勢の感染症対策を行うことはできるのだろうか。答えは”No”だ。

 もちろん、あらゆるものを禁止して、日本全体でロックダウンを行うのが、最も早く感染症を収束させる方法であることは間違いない。しかし、そのようなことを行えば、生活、経済がボロボロになるだけでなく、国民の精神、健康状態に多大な問題を与えることになる。いわば震災関連死のような形で、結果的に感染症より多くの死者が出ることも予想される。

 これから我々に求められるのは、長期にわたる感染症との戦いを勝ち抜くために、多少のリスクをとって、ある程度の日常を保ち続けることだ。教育現場に当てはめるのならば、緊急事態宣言が出されるような状況でなければ、【学校は通常の感染症予防を行ったうえで開校する】【授業日数を絞り、登校する時間をずらしながら最低限の指導、交流を行う】といったことが考えられる。

 このような、感染症対策一辺倒ではなく、様々なことのバランスを取る「持続可能な感染症対策」が、これから行政やメディア、国民全体で議論されていかなければならない。

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