改めて考えるマスクとの正しい付き合い方【新型コロナ】

改めて考えるマスクとの正しい付き合い方【新型コロナ】

 COVID-19(新型コロナウイルス)との戦いは、マスクとの戦いでもある。感染が日本で拡大し始めた初期から、店頭のマスクの在庫は底をつき、マスクの効果や流通に関する、デマを含む様々な情報が行きかった。マスク不足に対処するために、政府は全世帯へのマスクの配布を決め(通称「アベノマスク」)、それもまた新たな問題を引き起こしている。

 この記事では「マスク」に係る様々な情報を整理し、今後国民がどのようにマスクと「付き合って」いくべきかを考える。

マスク不足が引き起こす深刻な影響

 マスクが不足する状況がもたらす影響は、市民がマスクを手に入れられないことに留まらず、経済停滞や医療崩壊をも引き起こしかねない。

 まず、2月頃から報道でも度々取り上げられているように、医療現場でのマスク不足が、医療崩壊の危険性を高めている。様々な患者と「濃厚接触」しうる医療従事者は、特に感染リスクが高いため、施設の規模に関わらず厳重な感染症対策を行わなければならない。しかし、各アンケート調査により、多くの医療施設がマスクの補充が間に合っていない現実が浮かび上がった。

 特に、感染が判明する前に感染者を診察する可能性の高い個人医院は、事業者としての規模が小さいため、マスクの確保を十分に行えない。また、国から支給されたマスクも数が限られており、根本的な問題の解決にはつながっていない。

 次いで、介護施設でのマスク不足問題も表面化した。介護対象者は、主に感染した際の重症化リスクの高い高齢者であり、職員は高齢者への感染を防ぐため清潔なマスクを着用する必要がある。しかし、個人医院同様マスクの確保は難しく、国からの支給をもってしても、同じマスクを使いまわすなど、決して安全とは言えない状況が続いている。

 その他、保育所や交通機関など、社会生活の維持に必要だが、感染したりさせたりする可能性が高い職種は多くあり、そうした現場でのマスク不足は、さらなる感染者の増加や、機能低下など、一層大きな問題へとつながりかねない。

 また、あまり表に出ない問題だが、製造業でのマスク不足が起きている。例えば食品加工業では、COVID-19に関わらず様々なウイルス、細菌や汚れが商品に付くのを防ぐため、常に清潔なマスクを着用する。しかし、そうした工場でのマスク在庫にも限りがあり、支援策がとられているわけでもないため、今後マスクがないことを理由に生産停止する工場が出ることが予想される。こうした事態が市民生活にもたらす影響は計り知れない。

 また、感染症対策に必須の衛生用品の生産にも、同様に大量のマスクを必要とする。そうした現場でマスクが不足する事態は、決してあってはならない。

マスク着用に効果はあるのか

 マスクによる感染症予防効果については、以前から議論があり、今回の件で改めてその議論に注目が集まった。

 残念ながら、マスクをつけることによって自己への感染を防ぐことができるという明確な根拠は、現時点では上がっていない。いわゆる使い捨てマスクは、正確には「サージカルマスク」といい、日本語に直すと「外科手術用マスク」となる。このマスクは主に。患者へ飛沫等がかかることや、外部からの汚れが自身の顔につくのを防ぐことを目的としており、他人が発するウイルスをブロックすることは想定されていない。

サージカルマスクを着用した医療従事者の例

 外からのウイルスを防ぐためには、N95マスクなどを使用する必要があるが、こうしたマスクの供給も逼迫しており、医療現場が使用できるようにするために、我々市民は使用を控えなくてはならない。

 さらに、マスクに触った手で顔に触れると、かえって接触感染の原因となる可能性があり、ただマスクを着けただけで安心していると、かえって感染の温床となるとの指摘もある。

 ただし、自分から相手にうつさないという意味では、マスクの着用には一定の効果があるとされている。話したり、くしゃみや咳をすることによって飛沫が周りに散るのを防ぐことができるため、個人の感染防止ではなく、社会全体の感染防止という視点から見ると、マスクは着用するのが吉だろう。

 ただし、その際はマスクには触らない、外すときは紐を持つなど、接触感染防止に努めなければならない。これについては、NHKがまとめた「マスクの疑問あれこれ解決!正しいマスクの使い方」(https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1167.html)に詳しいので、参照されたい。

 また、最近では、スーパーマーケット店員などの心理的負担が問題になっている。マスクをつけることで、「自分は気を使っていますよ」という意思を伝えることができ、相手に安心感を与えることができる。お互いに気持ちよく過ごすためにも、マスクは使用するべきであろう。

どうしてマスクが手に入らないのか

 しかし、マスクが店頭に並ぶことはほとんどなく、一般人がマスクを入手するのが困難な状態が続いている。

 振り返れば、初期のころは、フリマアプリ等でのマスクの高額転売が問題となった。これは政府の規制で鳴りを潜めたが、店頭在庫の回復にはつながらなかった。

 そうした中で、政府の要請に応じ、各メーカーは大規模な増産を行っている。また、他業種からの参入も相次ぎ、現在では月7億枚を超える程度まで生産量は増えている。2月時点では4億枚であったことを考えると、メーカーの多大な努力がうかがえる。

 生産が増えても店頭に並ばない理由の一つに、政府のが買い上げを行っていることが挙げられる。医療現場や介護施設、教育現場などマスクの確保が喫緊の課題となっている所に確実にマスクを届けるため、政府がメーカーから強制的に買い上げて、配布を行っている。こうした現場での使用量が通常に比べて増加していることを考えると、市場になかなかマスクが回らないことも説明がつく。

 今、一般人がマスクを手に入れようとするならば、ネットを巡回して情報をかき集めるか、感染リスクを承知でドラッグストアを巡回して入荷の瞬間を狙うしかない。こうした現状では、健康に不安を抱える人や、花粉症などマスクが手放せない人がマスクを手に入れることが困難だ。こうした状態は解消する必要がある。

 報道等で度々取り上げられているように、台湾や韓国は、マスクの流通を国が管理し、一人一人に購入制限を設けることによって、国民全体にマスクを行き渡らせることに成功している。日本で実施するとしたらマイナンバーを活用することになるが、マイナンバーカードの普及率の低さからもわかるように、国全体にマイナンバー制度が浸透しているとは言い難く、実現は困難であろう。

 そうすると、本当に必要な人がマスクを手に入れられる状況を作り出すには、市場の原理に任せる他ないのかもしれない。需要が高まれば、本来価格が上昇するわけで、それによって、普通の人はマスクの買いだめを控える一方、マスクが手放せない人は、高い金を払いさえすれば、確実に入手することができる。

 もっとも、「緊急物資」の価格を釣り上げることには、一種の倫理的問題があり、この手を取れば国民の反発は避けられないだろう。今となってはどうしようもないが、やはり政府が管理するのが最善策であったのであろう。

「アベノマスク」はいかがですか

 マスク不足への対処策として政府が打ち出したの、布マスクの配布だ。これは、政府が買い上げた布マスクを、全国に各世帯2枚ずつ配布するというものである。

 発表した当時、給付金の支給を求める声が高まっていて、そうした中での「マスク給付」は国民の反感を買った。安倍首相がマスク配布を公表したのが4月1日だったことから、エイプリルフールのネタではないのかと揶揄され、さらにアベノミクスをもじった「アベノマスク」なる言葉も生まれた。

 マスク配布自体は、発想としては悪くなかったと言える。例えば、後に表明した減収世帯への30万円支給と合わせての発表であれば、反応は違っていたと推測される。しかし、あれほど話題になってしまい、さらに作りの悪さも相まって、マスクが届いたとしても、多くの人は着用に抵抗を覚えてしまうだろう。

 さらに、配布されたマスクに汚れが見つかったり、政府から受注したある企業の実態が不透明だったりと、様々な問題が浮上してしまい、「アベノマスク騒動」は一向に収まる様子が見えない。

 ただし、マスクの入手が難しいのであれば、意地を張らずあきらめて安倍首相とのおそろいマスクを着けるのがよいだろう。

私達がすべきことは

 幸いなことに、国内での大規模増産に加え、感染がひとまず収束した中国からの輸入は、回復、拡大しており、マスクが通常時のように手に入る日はそう遠くないとされている。

 マスクはCOVID-19対策を象徴する存在になっているが、決してCOVID-19対策そのものではない。そもそも、外出する機会を減らせば、それだけマスクの消費を抑えることができる。今我々国民に求められていることは、行政の要請に従い、常に他者を思いやる心を持ち、正しく予防、対策することなのである。

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